■安倍政権の残された課題
安倍が内閣総理大臣に再就任した2012年(平成24年)12月26日から辞任する2020年(令和2年)9月16日までの期間を一般的にこう称する。
民主党がマニフェストを掲げて自民党を下野させて民主党政権を確立したが政治的な遺産を残すことができなかった。安倍晋三は民主党政権を「悪夢の政治」とこき下ろしている。
安倍晋三が自民党総裁になり、衆議院選挙で圧勝して第2次安倍政権が誕生した。「安倍チルドレン」と呼ばれるぐらいの安倍政権は「安倍一強」と言われる保守体制となった。内政面では経済政策「アベノミクス」が有名だが外交で保守的政策を発揮してきた。
まず、「北方領土問題」での外交政策である。相手は強権ウラジミール・プーチン大統領である。長期政権で知られていてロシアプーチン政権は「領土問題」はないと主張している。安倍首相は外遊先で最もロシアを訪問してきた。これまでの内閣では実施できない外交政策を積極的に勧めてきていた。これまでの政権は「北方領土は日本固有の領土」と主張してきたため70年以上も進展がなく歴代の内閣でも対応できなかった。
安倍政権の外交政策により世論も「2島返還論・4島返還論」の話題が巻き起こり「領土問題」が注目されることとなった。メドベージェフ首相が強権であるため「領土問題」の対応はしてもらえていない。しかし安倍首相は「北方領土問題」を「2島返還論・共同経済開発」としてプーチン大統領に数多く提案しており日本国民にも北方領土は「日本の領土」という主張を繰り返してきた。
この点がこれまでの歴代内閣ではできないことでプーチン大統領の来日まで実現した。当時のアメリカ大統領はバラク・オバマ大統領で安倍首相のロシア寄りの政策について干渉することはなかった。安倍首相とオバマ大統領が「日米安保体制」を疎かにしていたわけではなく「安倍外交」を理解しておりアベ政治の本質を尊重していた。
「北方領土問題」について自身の内閣のうちに解決しようとする姿勢は国民のナショナリズムを掻き立てる。「安倍一強」でなければデリケートな「北方領土問題」について議論できなかったのではないだろうか?
また、「北朝鮮拉致問題」についても「無条件交渉」という条件で解決しようとしている。通常の保守政治家であれば「ならず者国家」との交渉条件を「無条件交渉」と主張するものはいない。
このことは「ならず者国家」に日本政治が屈服したことを認めることになる。しかし、安倍内閣は「無条件交渉」という門戸を広げて問題解決に取り組み党派を超えて取り組んできた。(ここでは小泉政権は例外とする)安倍政権は「アベノミクス」のイメージで脱デフレから国内経済政策が目立つ。実際、日経平均株価はバブル時代なみの水準となっていて「アベノミクス」は成功したと言える。
しかし外交では「北方領土問題」と「北朝鮮拉致問題」を軸にしたし政策から日本国益を重視した保守政治家である。憲法改正論者でもあり、右派団体とともに憲法9条改正に向けた改憲案を提出している。安倍政権下での改憲案成立には無理があるが「憲法改正」の議論を国会に提示したことは野党を含めて大きな意義がある。「憲法改正」は歴代の保守政治家の悲願であることは間違いない。祖父がなし得なかった「憲法改正論」を担ぎ出してくるところに保守政治家である安倍晋三がいる。
また安倍晋三の思想は「皇位継承問題」でも「皇統正当論」を主張して「女性天皇・女系天皇」を認めない保守論者でもある。今上天皇の「生前退位」を特措法の立てつけで切り抜け改元を実現させている。この改元は「女性天皇・女系天皇」の議論に繫がることになる。しかしこのテーマはデリケートなもので安倍政権の方から議論を始めている。
安倍晋三という政治家は「皇統正当論」を主張して「女性天皇・女系天皇」の論調をうまく交わしている。またこの問題は「令和改元」とタイミングがぶつかり「皇位継承問題」は国民的な議論にはなっていない。
しかし「安倍一強」は思わぬ形で消滅した。持病という爆弾を抱えた安倍首相自身の健康問題である。二階幹事長をはじめ自民党幹部は自民党総裁の延長論まで噂されていた。「安倍一強」とまで言われた長期政権は健康問題というあっけない形で終息してしまった。
現在の菅内閣は安倍政権の継承者ではあるが「実務型政権」で保守的な論調がない。「安倍一強」という特殊な政権と比べるとひ弱で短命政権となりつつある。実際、菅義偉という政治家は叩き上げで保守思想を持たないノンポリタイプの政治家である。
ここが菅義偉と安倍晋三の思想と大きな違いではないのではないか?「安倍一強」は野党やマスメディアから批判的な(揶揄)ネーミングであるがそれほど強力なリーダーシップがあるからこそ国益に沿った保守的な論調が生まれてくるのではないか。
令和になった今、安倍晋三のような保守的な思想を持った政治家は生まれてこないのではないだろうか。
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